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神戸地方裁判所 昭和31年(ワ)464号 判決

原告 河野節子

被告 芳村春子 外一名

主文

被告等は各自原告に対して金四十四万円及びこれに対する昭和三十一年六月十五日以降右完済に至る迄年五分の割合による金員を支払はねばならぬ。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事  実〈省略〉

理由

昭和三十年九月十五日午後五時頃神戸市葺合区脇浜町市電終点安全地帯附近の阪神国道上を大一―七二五五番貨物自動車を時速三十粁位で運転西進していた被告青柳が疲労の余り居睡り運転をしたために右安全地帯を避譲徐行すべき注意義務に反し折柄右安全地帯の区域内に停立して電車待合せ中の原告の東二米に接近するに至つて始めてこれに気附いて急拠ハンドルを左に切り急停車したが及ばず右自動車の前部を原告に衝突せしめてはね飛ばしよつて原告をして右大腿骨骨折の重傷をこうむらせたことは原告と被告青柳間において争がなく成立について争のない甲第一号証乃至甲第四号証と証人河野英雄の証言を綜合すると(1)原告は右負傷により直に入院し昭和三十一年四月二十八日に退院する迄の入院治療費として合計金十五万八千六百七十二円を支出し右(2)右退院後なお三ヶ月間通院治療のために金二万円を支出した外(3)当時原告は株式会社神戸製鋼所経理課に勤務し月俸一万四百三十八円を受けていたところ、右負傷により少くとも昭和三十年十月一日以降昭和三十一年五月末日迄欠勤を余儀なくされその間の俸給収入金八万四百八円を失い以上合計金二十六万八千一円の財産上の損害をこうむつた事実並に原告は昭和四年一月生の未婚女子であつて前記のように株式会社神戸製鋼所に勤務している者であるが前記負傷のために膝関節の屈伸が不自由となり正坐に堪えず且軽度の跛行をなし長途の歩行が困難である等の身体障碍を後遺しこれがため今後正常の条件による婚姻生活に入ることが望み難くされその精神的苦痛は多大であつてこれを慰藉するためには金二十万円を相当とするところ、原告はその後被告青柳より前後四回に合計金二万五百円の見舞金を受けたことを自認しているからこれを控除した慰藉料金額は金十七万九千五百円であることを各認定することができる。して見ると被告青柳は原告に対し本件不法行為による損害の賠償として前記(1)(2)(3)の財産上の損害並に右慰藉料の合計金四十四万円及びこれに対する法定の遅延損害金を支払うべき義務があるとせねばならぬ。

次に被告芳村に対する原告の請求について判断するに被告青柳が原告主張の日時場所においてその運転する大一―七五二二番貨物自動車を原告の主張するとおり状況並に経過の下に原告に衝突せしめよつて原告に右大腿骨骨折の重傷をこうむらしめたこと原告が右負傷のためにその主張するとおり財産上並に精神上の損害並に苦痛をこうむつたことは証人河野英雄の証言並に被告青柳富雄本人訊問の結果に照らして明であつて他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。然るに被告芳村は被告青柳を雇傭して自動車運送業を営んでいた者は被告芳村の内縁の夫である富永政一であつて被告芳村は単にこれに貨物自動車を貸与している関係であるに過ぎぬから被告青柳の不法行為について使用者の責に任ずべき筋合でないと主張するけれども被告芳村春子本人訊問の結果に徴すれば被告芳村は前記大一―七五二二番貨物自動車外数台の自動車を所有し自己名義により自動車運送業の免許を受けて該営業を営み且自己名義により右営業に関する諸税を負担しているのであつて従つて訴外富永政一が事実上の共同経営者たる関係があるか否かにかかわりなく被告芳村は右営業の経営者として被告青柳をその事業のために使用しているものというべく従つて右青柳がその事業を執行するについてなした不法行為については民法第七百十五条による責任があるものとせねばならぬ。尤も被告芳村は本件事故は原告の過失に起因するものであるから被告等に責任がない旨を以て抗争するけれども本件事故が専ら被告青柳の重過失に起因し原告にいささかの過失もないことは前段認定の事実経過に照らし明であるからこれを採用するに足らず又被告芳村は被告青柳の選任監督について相当の注意をなしたから責任がないと主張するけれども右のような事実はこれを認めるに足る何等の証拠がなく却つて被告青柳が自動車の運転中居睡りを催すような疲労状態においてこれを就業せしめたことはその監督について著しく缺けることがあることは明であるから被告芳村の右主張も採用の限りでない。

してみると被告青柳に対してはその直接の不法行為を原因として被告芳村に対してはその使用者責任を原因として被告等各自に対して金四十四万円及びこれに対する本件訴状副本が被告等に到達した日の翌日に当る昭和三十一年六月十五日以降右支払すみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるからこれを認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条を仮執行の宣言については同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 河野春吉)

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